ドラえもん『どくさいスイッチ』

いやー、なかなかどうして前日に予想していたレベルは割かしクリアしているし、更に部分部分では予想していた以上の演出をみせていて、本当に凄いなぁと思いましたよ。


水田さんドラの「じゃまものは消してしまえばいいんだよ」はもう、サラッと言ってましたね。「この100円玉でうまい棒でも買ってきなよ」ぐらいの気軽さで。
ああいうふうな調子で悪魔のささやきをされると、「え?いいのそんなことして…」という不安半分、でももしいいんだったらば…という誘惑半分で、なんともいえないブラックさがありますねぇ。


ジャイアンスネ夫を消してしまった時の、淡白に異常現象を描く様子も藤子SF短編チック。ネガポジ反転みたいな処理がかかって、「ほぁっ…」みたいな声出してフッと消えて、後に残るのはいつもと変わらない日常の風景だけ…。ここらへんは前日の日記で期待していたものをかなり上手に醸し出しています。


続いて感心したのは、世界中の人を消してしまった後の世界で、気を取り直して状況を楽しもうとするのび太の一人遊びシーンですね。
ほんと、のび太って一人遊び上手なやつだと思います。
「もし世界中に自分一人だけになったら、何をしてみたい?」
と言われた時に人が想像するような楽しみのツボはだいたいハズさずに踏まえる男、それがのび太

遊園地を貸し切り状態で遊ぶシーンなんてかなり楽しいひとときになっていて、「秘密道具の力でこんなことできたらいいな」という視聴者のワクワク心の方もきっちりかき立ててくれます。
しかし、面白うてやがてかなしき…ってやつですね。そうして後に残った空虚さがむしろ引き立つわけで。
ここらへんのシーンは実質のび太ひとりが登場人物となる、独演一人芝居状態なわけですが大原さんはよくぞ演じきったなぁと感心します。クセの無い声質だからという理由もあるでしょうけれど、もうオレの中ではのび太の声として全然違和感無いや。


そして家に帰ってから、誰もいない家の中で部屋の電気をひとつひとつ点けていくシーンがオレ的には密かにイチオシのお気に入りでした。
階段横のスイッチを入れると家の一角にともる照明の黄色い明かり、対照的に際立つまだ明かりのついてない一角の夜の闇。
広い家に一人だけ帰ってきた時に、誰もが体験したことのある光景ですよ。そういう生活の風景で叙情を醸し出す演出って大好き!あと停電した時に懐中電灯で入る風呂も。




誰か気に入らない人間がいるからといって、その人を消してもまた他の誰か気に入らない人がいることに気づくだけ…人と付き合っていく以上すれ違いや面倒ごとはつきものなのだから。
しかし、人と付き合っていくことによってこそ得られるかけがえの無いものもある…静香がのび太の健康を気づかって渡してくれた、バスソルトというアニメ版オリジナルアイテムがそのことを示唆する役割を果たしていましたね。


いや〜面白かったです。
でも、これ原作の時から思ってたんだけど、ドラえもんがこの道具の本当の使い道を説明するオチで言っている
「独裁者をこらしめるために『どくさいスイッチ』を持たせる」
って一体どういうシチュエーションよ(笑)?そんな需要って滅多にありえねぇ〜。


こちらが想像している以上に、雰囲気を再現・再構築することに繊細に気を使ってくれていて嬉しいな。
この調子ならばちょい後に控えている「タンポポ空を行く」も凄んげぇ楽しみです。ハートフル系の作品としてはオレの中でナンバーワンであるこのエピソードは、できればもっと熟練の域に達した頃に出して欲しいなぁなんて思っていましたが、なかなかどうしてこの調子ならば大丈夫。



ところで、原作では

のように万線・カケアミなどで表現されるF先生流表現法の緊張顔。
今回アニメシリーズでは

赤い顔で表現されてるけど、なんかちょっと違うような気がするんですよね。

なんで赤い顔してるの?みたいな違和感が今のところは、ある。
かといって漫画みたいなカケアミをアニメ絵にそのまんま入れるのも確かに違うだろうしなぁ…
実際のとこF先生は何色のつもりでいつもカケアミ入れてたんでしょうかね?アレって。
あ、でももうひとつのF漫画的表現である「影」の使い方は上手いと思います。

「ふーん、そんなふうに考えるの〜…」