ドラえもん

初回放送時を除けば、新シリーズでは初の1時間スペシャル体制。
なんだかんだでもうすっかり「お馴染みのこの声、この作画」って感じで馴染んできました。

  • 『一生に一度は百点を!』

早く宿題を済ませなければならない時に、ドラえもんが出してくれた道具「コンピューターペンシル」。どんな問題もあっというまに自動的に解いてしまう秘密道具に気を良くしたのび太は、テストでもそれを使おうとするが…

そもそもそんな道具出しちゃいけなかったんですけどね、ドラちゃんも。用事が控えていたため止む無くとはいえ。
今回の話でも冒頭から高木渉氏の先生節が大爆発!もう頭の中にはチータスしか思い浮かびません(笑)。
原作でのこの話のみどころはやはり、テストでカンニングをたくらむのび太をドラが「フン。」と冷た〜い目で見て、そのことが頭から離れないのび太が考えた末にコンピューターペンシルを使わずにテストをやりきるところなわけですが。
原作でのこの「まるできたないものを見るような」目の死に加減とかが絶妙で本当にF先生の絵の上手さを思い知らされるのですが、今回アニメではその域にまでさすがに達していなかったかな。こういう表情の時に目にハイライトが入っていると、どうしても目が死ななくなってしまうと思うんですけどね。
しかしその後のテストの場面で、のび太がドラのあの目を思い出すだけでなく、静香やスネ夫たちの言葉も思い出して葛藤するところがアニメ独自の演出でなかなかよかった。
思いとどまる描写だけじゃなくて、いったん思いとどまろうとするもスネ夫のからかいが頭に浮かんで「くそっ、使ってやるぞ!」という方向に揺らぎ、果たしてコンピューターペンシルを使ったのか使わなかったのか?が後にまで持ち越される演出。
本音を言えば、感情としてはペンシルを使って百点を一度とってみたい。その欲望は間違いなくある。それを踏みとどまることが出来た、というところにのび太の決断の価値がある。
親友のドラえもんが自分を見る時の目、静香が自分のことを素直に誉めてくれた時の目、そしてのび太自身が自分を見る時の目。そうした数々の目を思い出して、その中に映っている今の自分は、果たしてそれでいいのか?自分でそんな自分を好きに、誇りに思うことができるか。
「使おうと思ったけど…使えなかった」と言うのび太は、良い意味での「臆病さ」を持った人間です。臆病になることが出来るのは、自分を守り、大切にしようという気持ちがあるから。
自分のことを大事に考えている人間であれば、カンニングや万引きのようなさもしい犯罪行為でコソコソしている自分や、他人を傷つけて不快にさせている自分の姿を抱えて生きていくような毎日は辛く感じてしまい、そんなことは「臆病だから」こそ出来ない。薬や援助交際を「他人に迷惑かけなきゃいいんじゃないの?」と割り切り、それ以外にやるべきでない理由が思いつかないということが有り得ない。
どれだけ素直に自分の人生への充実感やそれを取り巻く人々への感謝・慈愛の気持ちを抱ける生活を送れているかなのでしょうね。
ラスト、ジャイアンが百点を報告して叱られる相手が父親から母親に変更されていましたね。ここは原作どおり父親で、男泣きさせて「頭が悪いのはしょうがないが、不正だけはするなと育ててきたつもりだ」と言って怒らせた方がよかったんでないでしょうかね。
ジャイアンママのカミナリが定番オチ、みたいなパターンに当てはめる必要は無いような。

  • 『のろいのカメラ』

ジャイアンスネ夫の意地悪に堪忍袋の緒が切れたドラえもんは、復讐の道具「のろいのカメラ」を取り出すが、余りに恐ろしいその効力に使用を思いとどまる。しかし何も知らないのび太がカメラを手にしてしまう。
撮った人間の人形が出てきて、その人形に起こったことは本人の身にも起こるという恐ろしいカメラ。ドラえもんたちの人形はやんちゃな女の子の手に渡り、バラバラにされる危険が迫る…

同様のアイディアによるF先生作品が、ドラ以外でもSF短編『丑之刻禍冥羅』(うしのこくかめら)があるのですが、写真に釘をうって苦しめるリアルな恐怖が魅力のSF短編と比べて、こちら「のろいのカメラ」という道具は人形にすることでコミカルさを加えつつ、人形におよぼされる危険行為の数々を多彩なビジュアル手段で見せる少年向けサスペンスに仕上げているのが面白い描き分けになってます。
先週「楽しみ」と言っていた「ピカゴロゴロ」のシーン。それで引きになってCMに入ったのが爆笑ものでした(笑)。ネガポジ反転と、ショッキングなBGM。その後パパママを撮影した時にも、かぶせで同じシーンとBGMをまんま繰り返したのも笑った。
同様のネガポジ反転な色使いやその他サスペンス調の演出を他のシーンでも駆使して、緊張感あふれる展開を盛り上げていく工夫が随所に見られた作品でした。
ガン子ちゃんと遊ぶジャイ子が、原作連載初期の粗暴さではこないだの『漫画家ジャイ子』でのジャイ子像と合わなくなってしまうので、今回アニメでは年上のお姉さんとして遊びにつきあうポジションに変えられていたのですが、位置づけのしかたが非常に上手だったと思います。
「のこぎりで首をギコギコ」とかの危険な原作シーンを「かわいそうだからやめて」とたしなめる役にすることで上手く削除しつつ、冷蔵庫につっこむのはジャイ子も構わなかったり(だって人形ですものね。斬るのは可哀相だけど)ガン子を止めようとして人形を引っ張り合ったり、踏まえるべきツボはしっかり踏まえて人形を危機にさらしてます。
ドラ人形を手にしたジャイアンスネ夫の、人形の効力を知りながら面白半分に酷いことをどんどん行う場面によって、「報復のオチもやむなし」と読者/視聴者にも納得させるのが本作のストーリーテリングの工夫なわけで、最後は原作のスネ夫だけでなくジャイアンにもおもらしオチが降りかかってました。一応のフォローか、そんなドラのびにも災いがふりかかり
「人を呪わば穴二つ」
という締めの言葉が入っておりましたが、これを蛇足とみるか否かは微妙なとこかな。笑えたし。

ドラえもんの出した宇宙戦争ゲームで遊んでいたのび太は、小さな本物の宇宙船に遭遇する。それは小さな悪の宇宙人たちの戦艦であり、捕らわれの小さな姫を救い出そうとする小さなロボットとの出会いと冒険の始まりであった…
のび太はアカンベーダーを倒しアーレ姫を助け出すことが出来るだろうか?

この時期にコレをやるというのが、タイムリーというか悪ノリというか…(笑)
アーレ=オッカナ姫とか、出てくるキャラクターの数々も版権とか怖がらずにだいたいそのまんまで出てきたので大変面白かった。
特にアカンベーダーのベロがやたらベロベロ動くのがアニメならではの感動!
戦艦との追撃戦のカメラワークや音楽はスリル溢れるのに、背景に流れるのはそこらへんの家屋や商店街という脱力感が当たり前のように貫かれているのがこれぞFイズムですね。
ベーダー艦隊の全艦一斉砲撃とかかなり格好よかった。

今回スペシャルでは以前の大山ドラシリーズとは少し違ったタイミングでCMに入る独自のスタイルがとられていましたね。中でも「のろいのカメラ」の引きは気に入りましたよ。