ドラえもん

  • 『動物変身ビスケット』

外出中のドラえもんが置いていったらしいビスケットを見つけたのび太。ちょうどママを訪ねてきた来客へのお茶菓子にしようとするが、動物の形をしたそれは食べるとその動物に一定時間変身してしまうという「どうぶつへんしんビスケット」であった…。次々に動物変身してゆくお客さん!パニックを避けるためにママに気づかれまいと、あの手この手をこらすドラたちであったが。

だからそういうヤバいものを放置して外出するなと(笑)。「たべっこどうぶつ」などに代表される動物型ビスケットから発想を得たであろうこの道具、動物に変身できることで役に立つという便利な場面は一切無く、とにかく「変身しちゃって、やべぇ!」というドタバタ騒動を引き起こすための小道具として終始しているのが愉快なエピソードです。
「お客様が来ているんだからお行儀よくして邪魔はしちゃいけない」という状況なのに、それをぶち壊して大騒ぎしてしまうシチュエーションの面白さ。これは「葬式の場で意味も無く無性に笑いがこみ上げてきてしまう」というドリフのコント的な笑いのツボに通じるものがあります。
「うわ〜あのビスケット食べちゃったの?何枚たべたのさ!くいしんぼ!」「あ、お客さんすみません、ちょっと用があるのでこちらへ…え〜ここがうちのトイレです、ごゆっくり」とどめはちゃぶ台の上にあがって「ワーワー!」もうそこまでするなら腹くくってママに事情を話せよって思うのですが(笑)。
オチはママもビスケットをつまみ食いしてウサギになる、という原作のとおりでしたが、語尾に「ぴょん」をつける三石ママ…「た、たべてないぴょーん!」というか偶然にも三石さんの声=うさぎちゃんという声優マニアもちょっぴりニヤリなオチになってる(笑)?

  • ミニシアター

「すいこめ、すいこめー」と囁くと通話口の先にあるものを吸い込んで手元に持ってくることの出来る夢の糸電話。
とはいっても糸電話の長さはたかが知れているので、縁側から室内のケーキを吸い込もうとする…どう見ても室内に上がり込んで取りに行った方が早いだろうと思うのですが(笑)それでもあの道具があれば絶対ああして使ってみたくなりますよね。
最後はケーキ奪取作戦を阻止したママが通話口から飛び出てきて、イタズラっぽくはしゃぐ。うさぎオチに続いてママ萌え運動の一環なのかーっ!?もしそうだとしたらまんまと術中にかかっている玉子さんマニアのオレ。

  • 「しずかちゃんさようなら」

先生にこっぴどく叱られたのび太は、「こんなぼくが夫になったら静香ちゃんに苦労をかけさせるだけだ!」それならばいっそこれ以上親密にならない方が彼女のためだと決心する。わざと嫌われ者になってでも静香から離れようとする健気なのび太だが、そんな様子のおかしさを見て静香はますます心配を募らせる。のび太ドラえもんに頼んで、浴びればたちどころに人を不快にして近づけさせなくなる「ムシスカン」を使うのだが…

ばかだねぇ…ばかだけどけなげだねぇ。
そんなのび太の必死ぶりが笑えて、泣ける良作。勝手に一人で思いつめて、「静香ちゃんのためを思えばこそなんだ!」とか一人で盛り上がってわけわかんないことばかりやってる。本当に一人上手で、ギャグ漫画の主人公として見てて飽きないやつだなぁと思います。理想の主人公だぜのび太
大原めぐみさんの演技も、やってる物事自体はものすごくくだらないことなのに、真剣さを通り越してシェークスピアの主人公みたいな大仰さを込めた口調で独白をキメているのが面白おかしくて良いです。着々とのび太イズムを自分のものにしていますね。


度を越した量のムシスカンを浴びたせいで、理屈や感傷を越えてとにかく側にいるだけでも心身ともに耐えられなくなるような不快感ウェーブを放射するのび太
当然その猛威は静香にも伝わるが、精神的に「不愉、快、だわ…」と感じながらもなお静香は背を向けることをせず、のび太を心配して目の前まで近づいて行く。不愉快なのに心配、そんな決定的な矛盾をものともせずに乗り越えてまで友人を心配することを止めない静香…その優しさに心打たれる、半端じゃなく感動できるシーンです。


その感動を効果的にするためには、
「そうはいっても側に近寄れるわけが無いこの不快感」
というこのムシスカンの効果を映像的に表現できるか、がこのシーンの肝だったと思いますが。
親友のドラはおろか、階下にいるママまで「なんだかよくわからないけど…2階にものすごく不快な存在感を感じる!家の中にいられない!」と戦慄してみせる場面を使って上手く描写していたのでは。
惜しむらくは、最近では「飲み薬」系の道具を作品に出すのがよろしくないとのことで、ムシスカンも原作の錠剤服用スタイルから頭にかける液体薬になっていたことですが。液をかけたら皆近寄れなくなるって、なんか臭くなったみたいで嫌じゃ〜ん(笑)。
内服薬であることによってこそ、体の芯から発される不快感オーラというのがイメージし易くなると思うし、何よりも原作ではムシスカンが錠剤であることによって
「飲み過ぎて気持ち悪くなる」
「静香は親身になって介抱し、薬を吐かせてのび太を助ける」
「静香は、のび太が成績を気に病んで自暴自棄になって薬を飲んだのだと勘違いし、真剣に怒る」
「はは…こっぴどく叱られちゃったなぁ(涙を浮かべ微笑む)」
この流れが凄まじく感動を呼ぶわけですが。アニメスタッフも出来ることならこっちの方の流れを思う存分描きたかったことでしょうよ、そりゃ。
かけ薬だから風呂に放り込んで洗い流す、という気転と浴室内での言葉がエコーする臨場感は中々のフォロー策でしたがね。