『銀河ヒッチハイクガイド』

で、観に行ってきたのがこの映画。やってる館数が少ないうえに、2週間限りの上映とのこと。上映規模が小さすぎる!
SFコメディ小説として知る人ぞ知る人気作が20年の時を経てついに映像化。作者のダグラス=アダムス氏は心臓発作で惜しくも亡くなられましたが…。

あらすじ

 人類は自分たちが地球上で最も知的な高等生物だと思っているが、正確には彼らは3番目に賢い生物だった。2番目に賢い生物・イルカは地球に迫っている運命について宇宙からいち早く情報を仕入れ、何とかして人類にも分かるように伝えてやろうとメッセージを試みたが、無駄であった。昔から彼らがどんなに飛び跳ねて何かを伝えようとしても、人類は
「いつ観に来てもイルカショーは面白いなぁ。イルカは本当に賢いなぁ」
と何も理解せず笑って拍手を送るばかりなのだ。


 典型的な平凡イギリス人アーサー=デントは今日も爽やかな朝を迎えていたが、役所が勝手に進めていたバイパス計画による工事でいきなり家を破壊されてしまう。しかしそんなことは約10分後にはもうどうでもよくなった。地球人の知らない間に宇宙で進められていたバイパス計画が、地球を跡形も無く吹き飛ばしたのである。ちなみに事前の公示は異星でちゃんと行われていたので、見に行かなかった地球人が悪いらしい。
そこへ現れたアーサーの親友、フォード・プリーフェクト。自動車の型名そのままの変な名前を持つ彼は、自分は実は「銀河ヒッチハイクガイド」の編纂のため地球担当として滞在していた宇宙人であることを明かし、世話になった礼にアーサーを連れてただ2人消滅寸前の地球から脱出した…銀河ヒッチハイク道具一式と、「宇宙で最も大事な必需品」一枚のタオルを携えて!


たとえばスターウォーズのようなアクションまたアクションの視覚的興奮で見せるハリウッド的スペースオペラ映画、…とは対極の位置にあるブリティッシュジョークに満ちた宇宙冗談ドラマをどうやって映像化するのかと思っておりました。
なにしろ物語の半分は「ちなみに今ちょっと出てきたこいつにはこれこれこんな笑えるウンチク話があるのだが、それはそれとして」みたいな寄り道に終始して楽しませていた小説です(笑)。お笑い芸人の一発芸のような見た目の可笑しさとかでなく、理屈を並べて言葉や観念のアヤで「ぷぷっ」と笑わせる知的ユーモア。
ラジオドラマや小説といった媒体でそうした言葉の面白さで人気を博した作品だけに、読んだ人それぞれが独自の映像イメージを頭に描いていることも厄介です。下手に映像化しても「俺が文章から想像していた○○の形状はこんなのと違う!」と皆が思ってしまうからね。
かく言うオレも、予告編の映像を観た段階では鬱ロボット・マーヴィンや見る者すべてに不快感を与えると言われるヴォゴン人の風貌などに「え、こんなデザインなの?」と違和感を感じていたのですが、スクリーンで動いているのを観たら不思議と納得してしまいました。多少の変更こそあれ、そんなことは関係無いくらいにキャラが活き活きと動いているからなのかな。

ヒッチハイクガイドを引用したウンチクの場面や、原作を読んだ人なら誰もが知っている「落下するクジラ」のシーンなども、見事に言葉のジョークが映像の中に織り込まれ、魅力的な映像が言葉の面白さを絶妙に肉付けしているという好バランスの仕上がり。
CGだけに頼らず敢えて着ぐるみ等のアナログ特撮手法を取り入れていることもいい味を出している。とはいっても、アナログ臭さをわざと強調して手作り特撮のアラをギャグということにして誤魔化すようなB級映画によくある妥協は決してせず、あくまでも「この場面の場合CGよりも着ぐるみの方がここはもっとリアルになる」という確信のもとに敢えてその手法を選択しているのです。特撮技術面から見ても非常に見所のある、いい姿勢で楽しんで作っていると感じました。

映画オリジナル要素としてアレンジされた女副大統領や宗教家ハーマ=カブーラといったキャラ、ヴォゴンの星に自生するツッコミを入れる習性を持ったパドル型生物やら「宇宙最強の銃」のくだりも、さすが故アダムス氏のアイディアが直々にあるだけにこれまた遜色の無い面白さ。
原作に比べて、アーサーの恋や精神的な成長を描くことによって映画ならではなハッピーエンドに具合よく落ち着いてしまっていることも別に気にならなかったのが不思議。普通「そんなありきたりのイイ話になってたまるか!」とこの作品のファンなら思ってしまいそうなのですが。結果的に実によくまとまったハッピーエンドになっているので、その収まり具合のよさに「まぁそんな都合のよい展開ぶりもある意味この作品らしいか(笑)」と納得させているのかも。

SFコメディが好き、かつモンティ・パイソンの笑いが理解出来る人にはばっちりオススメ出来る作品です。ただし原作を先に読んでいた方がいい。でないと置いていかれます。